1994年、堀部安嗣建築設計事務所を設立し、2002年に「牛久のギャラリー」で第18回吉岡賞、2016年には、「竹林寺納骨堂」で日本建築学会賞(作品)受賞。瀬戸内海を駆け巡る、豪華客船「guntû(ガンツウ)」をはじめ、古民家を改修したオーベルジュ「Satologue(さとローグ)」や、「竹林寺納骨堂」など、建築界で著名な建築を手掛け、住宅の設計にも力を入れている。そんな、日本を代表する建築家である堀部氏が、住宅を手がける際に「必ず提案に入れる」という「自宅サウナ」。FOJ編集部は、堀部氏に特別インタビューをさせていただき、前編では、堀部氏がサウナに魅了された経緯や、サウナの魅力、建築のあり方を語ってもらった。
堀部氏が、魅了された、フィンランドでのサウナ体験。

堀部氏の奥様(左側)が、フィンランドでサウナにハマったとのこと。
(堀部)僕は子どもの頃から旅先とかでサウナに入っていました。でも、当時はそこまでサウナの良さを分かっていたわけではなかったんです。そんな中で、サウナってすごいなと思ったのが、数年前にフィンランドに行き、サウナに入った時でしたね。フィンランド流の「低温高湿」のサウナに入ったところ、それからハマってしまって……国内の出張先のビジネスホテルでもサウナ付きの部屋でないと満足できないくらいハマってしまいました。(笑)
自宅サウナによって得られた「自分の身体が、宇宙とつながる感覚」

サウナの価値について話す、堀部氏夫妻。
(堀部)私は、建築には、時に自然を遠ざけて暮らしを守り、時に自然と繋がる両極性の機能があると思っています。それを象徴的に表している空間としてサウナがあると考えます。熱い室内でじっと集中し、水風呂に入り外気浴で解放される。私自身も、自宅のサウナに入るようになって、今までより「身体と自然が対話する感覚」を覚えるようになりました。外気浴をしながら星空を眺めたり、放射冷却を肌で感じていると、自分が宇宙の一部になって世界と繋がっているような感覚になるのです。これは、サウナが持つ大きな魅力で、建築にサウナがあることで自然や宇宙を直接繋がり、建築が提供する体験や価値をぐっと濃くしてくれるのではないかと考えています。
温泉やお風呂とは違う、サウナの価値。
(堀部)例えば、住宅ではないですが、「城崎温泉 泉翠(せんすい)」という旅館にサウナを作ったことがあります。旅館の設計にサウナを入れるご提案をした当初、旅館の主人は「温泉の町なんだからサウナなんかいらない」と言っていました。そこで、「騙されたと思って入ってみてください」と,京都にある「鈍考」という私設図書室のサウナに入ってもらいました。そうしたら電話がかかってきて、すぐにサウナを旅館に入れることになりました.温泉やお風呂とは違う効果がサウナで得られるので、両方ある意味を感じていただいたのだと思います。

城崎温泉「泉翠」の貸切サウナ。当初導入予定がなかったが、堀部氏の提案により導入。サウナ導入したところ、大人気という。
日常的に情報の渦の中にいる現代。そこから逃れたいという人間の本能的欲求。
(堀部)サウナの在り方は多様であるべきだと思いますが,僕の場合は暗くして自分の身体と向き合える環境がリラックスできます。サウナに入っている時間が気軽にできる瞑想体験になっていると言いますけど、本当にそんな感じです。情報量が少なければ少ないほどいいと思います。日常的に情報の渦の中に居続けているので、そこから逃れたいっていう本能的な希求に対して、サウナがよい受け皿になっているなと思います。日常的な慌しさの中でサウナと共にあるのが僕にとってはすごくいい。
「暗さ」も人間にとって必要な環境。ガラス窓のないサウナが与えてくれる豊かさ。
最近は、前面ガラスを設けたサウナも多いですが、うちのサウナは室内は閉めると暗いです。わずかな照明だけで、暗いところにいられることも、デトックスになっていますね。「暗さ」というものが、人間にとって、いかに必要な要素かがよく分かります。

堀部氏の自宅にあるサウナ。“暗さ”にこだわった空間。