後編:「人」と「自然」を結びつける、自宅サウナの価値。

1994年、堀部安嗣建築設計事務所を設立し、2002年に「牛久のギャラリー」で第18回吉岡賞、2016年には、「竹林寺納骨堂」で日本建築学会賞(作品)受賞。瀬戸内海を駆け巡る、豪華客船「guntû(ガンツウ)」をはじめ、古民家を改修したオーベルジュ「Satologue(さとローグ)」や、「竹林寺納骨堂」など、建築界で著名な建築を手掛け、住宅の設計にも力を入れている。そんな、日本を代表する建築家である堀部氏が、住宅を手がける際に「必ず提案に入れる」という「自宅サウナ」。FOJ編集部は、堀部氏に特別インタビューをさせていただき、後編は、高機能化している現代建築の住宅だからこそ、自宅サウナを導入すべき魅力を語ってくださった。

建築は、人と自然を結びつける大切な役割。

建築は、人と自然を結びつける大切な役割を持っています。住宅の設計においても,身体になじむ自然な素材を使うことが大切です。中でも木でつくられた空間は、私たちを人間である前に、動物として包み込んでくれると感じます。近代以降、新しい建築の素材が次々と生まれましたが,生物としての長い歴史から見ると、ほんの数百年の話ですから、コンクリートや鉄が自然素材と同等の「安心感」を与えてくれるとはまだ言いにくいのではないかと思います。だからこそ、プランニング(部屋の配置)を考える上でも、どうやって人間が持つ動物らしさを引き出し、受け止めるかを意識しています。たとえば、半戸外を設けて自分ではコントロールできない季節や天気の変化を取り込む。また、静かに過ごしたり、自分と向き合うためのほの暗い場所をつくる。人間も時として巣のような暗さや、外部環境との接続を求めるのだと思います。生物単体としての営みを受け止めながら、他の動物や自然と共存している実感が持てる居場所が必要なのでしょう。

堀部氏自邸母屋の、「半戸外のサンルーム」。あえて断熱気密を緩くすることで、自然を感じられる空間に。

実は、堀部氏自邸も「自宅サウナを作りたい」と思い、設計を始めた。

実は今住んでいるこの家(堀部氏自邸)を作りたいと思ったのも、サウナが欲しいと思ったからなんです。サウナが、私たち夫婦の生活にとって欠かせない要素になってきた頃に、自宅にサウナが作れることが分かり、自宅を作ることを決めました。自宅にサウナを作る上で、エネルギー面が気になるので太陽光発電を導入したり、半戸外も必要だよなと思ったり、井戸水も掘ったり……本当にサウナ起点でできた家なんですよね。そのくらいサウナ起点で設計をしているので、クライアントにも勧めざるを得ないなと思っています。(笑)やはり自分たちが、大事にしていることを伝えたいですし、サウナを通して、より良い暮らしについて考える輪が広がっていくのであれば、この「自宅サウナ啓蒙活動」も価値があるのではないかと思っています。

堀部氏の作品の中でも著名な「葉山の家Ⅳ」。実は、自宅サウナを起点に設計されている。

堀部氏が手がけた住宅では、導入率8割。「自宅にサウナ」は必須。

(堀部)設計の依頼が来た時にまず開口一番に「サウナは入れますか?」って聞きますね。二郎のニンニク入れますか?みたいな(笑)驚かれる方も多いんですけど、粘り強く良さを伝えながら住宅に約8割の導入させてもらっています。結果として入れた住宅はみんな喜ばれていますね。お施主様から「こんなに気持ちいいと思わなかった」と言っていただける瞬間が嬉しいです。

サウナは、設計の依頼が来た際に、必ず提案には入れると語る、堀部氏。

高断熱・高気密性能が高い現代の家だからこそ、自然とつながる環境=サウナが重要

住宅は高断熱高気密の流行が強くなっていて、どんどん外部から閉じていってしまうのではないかと感じています。つまり、窓も開けない生活になって、風土とか気候とか季節の変化を感じられない場所になってしまいます。そういう時にも、サウナが外の自然を感じられるきっかけを与えてくれて、その延長に半戸外という空間の大切さに気づくことにも繋がる。暮らしにおいて何が大切なのかを考える時に、ひとつひとつの空間がある意味やその連鎖を住まい手の方から感じてくれるんですよ。当たり前のように吹いていた風がこんなにも気持ち良かったのかとか、星空がこんなにも美しかったのかとか、外の素晴らしさを改めて感じさせてくれる仕掛けは、サウナ以外にはなかなかないなと思っています。現代社会において、普段、裸で外に出ることはほぼないですが,外気浴では自然と裸で外に出ます。外気浴をしながら感じる開放感は特別で、同時に外部から守ってくれる室内のありがたさも感じられますね。

堀部氏自邸のサウナのすぐ横に設置されている外気浴スペース。自然と人間がつながる環境に。

サウナの設計は、「人間がコントロールできない自然の力」をいかにうまく設計するか。

自宅のサウナは、静岡県の天竜で育った檜を天然乾燥させて使っていますが、人工乾燥材とは香りがまったく違います。サウナにおける「嗅覚から感じる心地よさ」はかなりのウェイトを占めてると思うんですよね。温熱環境に加えて、暗さや香り、素材の質感、五感を使って空間を感じられるのがサウナだと思っています。やはりサウナの歴史をたどっていても、ログの体積のある木で作るサウナが原始的でありつつ、結局目指すべき到達点なのだと思わされます。できるだけ自然に逆らわずに空間を作るために,素材だけでなく水蒸気や熱といった人間がコントロールしきれない自然の力をいかにうまく設計するかを考える必要が出てくるので、設計していてすごく面白いんですよね。

堀部氏の代表作、Satologueの位置する「棚澤(たなざわ)集落」。山と川とそこでとれる食べ物と、全てが良いバランスで調和している。

水の国、ニッポン。サウナからの水風呂こそ、水を感じられる機会に。

(堀部)日本には、水が豊富にあることも、多様な入浴文化の発展に繋がったのだと思っています。だから、「日本の水の素晴らしさを感じる」という観点でも、サウナはいいですよね。(住環境の中に)水と出会い、潤う環境を作る上で、日本はとてもいい土地なのだと思います。京都は、もともと水風呂文化がある土地柄で、サウナ人口が、ものすごく多いんですよ。

(参照)京都の銭湯は、9割が地下水。https://discoverjapan-web.com/article/119300

京都盆地の地下には琵琶湖に匹敵する地下水があるといわれるほど京都は水に恵まれた都市。豆腐などきれいな水にまつわる名物も多い。銭湯も地下水を使用している施設が圧倒的に多く、恩恵を肌で感じることができる。

もともと日本は蒸気浴が主流で,江戸後期ぐらいから湯船に浸かる文化が生まれました。そう考えると日本は、元々、サウナ文化がある国だったと言えます。この豊富な水源を持つ自然の豊かさが与えてくれる、水の気持ちよさという体験価値を、日本のサウナ文化に取り込んで、独自のサウナ先進国になっていけばいいなと思っています。

 

堀部安嗣(ほりべ・やすし)

1967年神奈川県生まれ/1990年筑波大学芸術専門学群環境デザインコース卒業/1991〜94年益子アトリエ/1994年堀部安嗣建築設計事務所設立/2007〜23年京都芸術大学大学院教授/2022年~放送大学教授/2002年「牛久のギャラリー」で第18回吉岡賞受賞/2016年「竹林寺納骨堂」で日本建築学会賞(作品)受賞/2021年「立ち去りがたい建築」で2020毎日デザイン賞受賞

主な著書:『堀部安嗣の建築 – form and imagination』(2007年、TOTO出版)『堀部安嗣作品集 1994-2014 全建築と設計図集』(2015年、平凡社)『堀部安嗣 建築を気持ちで考える』(2017年、TOTO出版)『堀部安嗣 小さな五角形の家 全図面と設計の現場』(2017年、学芸出版)『住まいの基本を考える』(2019年、新潮社)『ガンツウ|guntû』(2019年、millgraph)『堀部安嗣作品集Ⅱ 2012-2019 全建築と設計図集』、『Ⅲ 2019年-2024年』(2024年、平凡社)『別冊太陽』(2025年、平凡社)

前編:「建築家 堀部安嗣とサウナ」

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